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2009年の夏にライブ活動を開始。 2012年3月7日、自主レーベル「十三月の甲虫」を立ち上げ、1stフルアルバム「かつて うた といわれたそれ」を リリースする。 2012年夏、FUJI ROCK'12 ROOKIE A GO GOに出演し、その足で東京に拠点を移し、都内16ヶ所、16日連続ライブ『侵蝕の赤い十六日』を敢行する。 2012年12月12日、ライブ盤&ドキュメントDVD 2枚組み『LIVE 2012・大阪/侵蝕の赤い十六日・東京』をリリースする。 2013年夏、踊ってばかりの国とのスプリットシングルをライブ会場限定で発売。「8月のメフィストと」を収録し、同時に「8月のメフィストと」PVも公開される
2007年冬、兵庫県元町の高架下にイーグルはいた。小雨が降る午前2時の三宮は寒く、人影もまばらだった。そんな中で日銭をかせぐべくコートの襟を立てブルースをうたう。吐く息は白く渦を巻き、ジャニュアリーの寒空へ吸い込まれていく。天涯孤独の流れ者で、街を転々としてきたこの男の人生はすれていた。人に愛されることを知らないこの男の横にはいつもテレキャスターだけがあった。そんな男の日常からブルースがうまれるのはまさに必然であった。ちなみに彼の音楽のルーツはGLAYである。 この日もウイスキーのボトルをあけ、三本目が底をつきかけたその時である。道の向こうから、黒く巨大な塊が揺れながら近づいてきたのだ。周囲の景色はゆがみ、モザイク状ににじんだ輪郭はゆらめきながら中心に向かってとぐろを巻いている。そしてその中心には二つの目があった。ここまできてこの塊の正体が人間であることを把握した。 そして目のあったその瞬間、イーグルは「殺される。」そう感じたらしい。 この男が後にGEZANのボーカルをとることになる"マヒトゥ・ザ・ピーポー"である。この時、若干17歳であった。 朦朧とする思考の中、黒い渦に飲み込まれぬよう懸命にギターをかきならす。弦は切れ、チューニングは狂い、かき鳴らす右手の指からは真っ赤な血しぶきがあがっていた。 一方のマヒトは目の前の光景を把握しきれずにいた。というのも、この男はただ便意を我慢しているため悶絶の表情を浮かべているにすぎず、何も目の前のこじきを殺してやろうなどとは微塵も思っていなかったのだ。ただお腹が弱かっただけである。 そのため、ひどく困惑してしまった。しかし、つむぎだされるリズムに体が徐々に反応し、気づけばステップを踏み、痙攣したように踊り狂っていた。 雨曝しなら濡れるがいいさ。 二人は高架下から飛び出し転げまわっていた。血の味がする。ちぎれかけの喉が赤くにじむ。 この夜、眠った神戸の町に灼熱の雑音楽がこだました。セッションは近隣の警察の通報によりわずか15分で中断を与儀なくされたが、のちに平成のミック&キースとうたわれるGEZANのマヒトゥ&イーグルはこうして出会うことになる。 予断だが、マヒトは後日、この日のイーグルを、ブラインド・レモン・ジェファーソンの生き写しかと思ったと語っている
こんにゃくが好きだ。 あの弾力、歯と歯の間にぶにゅぶにゅとめり込むあの触感は、生そのもの感覚と言い換えてもいい。栄養価はほとんどない。それでいてあの存在感。本当に美しいものとは決まってこうである。またおでんの汁をほとんど吸収しないあの姿勢には徹底されたダダイズムを感じる。僕もああなりたい。僕もああなるんだ。 マヒトはコンビニのおでんをつつきながら震えていた。 おでんの汁を飲み干し、ゴミ箱にほおりガラムに手をかける。赤と金で描かれたパッケージの中は空っぽだ。マヒトはチッと舌をならし、部屋をでる。 近所のコンビニではタバコを扱っていない。そのため、少し歩いた先にある公園脇のタバコ屋まで足を運ばなければならないのだ。 家賃2万4千円のボロアパートを出ると、夏の終わりの長い西日が、町をオレンジ色に染めていた。何かはおってこればよかったと腕をさすりながらマヒトは歩く。鳥肌がじんわりと浮かんでいる。 途中、誰もいない公園のブランコが揺れている。あたり一面の砂にはたくさんの落書きがしてあった。今の今まで子供達が遊んでいたのだろう。どこからかカレーのいい匂いが風に運ばれて鼻先をかすめる。そしてそのままオレンジの光に解けて、高い空に上っていった。 マヒトは公園を抜け、脇にひっそりとたたずむ古びたタバコ屋に向かう。マヒトはそこで、とんでもないものを見た。タバコ屋の小窓にはいつも居るはずのジジイかババアかようわからん老人の姿はなく、代わりに大きなこんにゃくがあったのだ。 狼狽。 マヒトは冷や汗をおさえながら、こんにゃくに近づいた。近づく過程でこんにゃくの正体が人間であることがわかった。いや、こんにゃくに、通常人間の顔にあるはずの鼻や目などのパーツが乗っているといった方が正しいかもしれない。マヒトは咄嗟にphot shopの初心者が雑なコラージュをしたような顔だと思った。また水木しげるのヌリカベのモデルはこの男ではないかとも思った。 「ガラムをください」 声は震えて言葉になっているのかわからなかった。通常、音として把握する際に働くべき耳の奥の蝸牛が、極度の緊張で痙攣しているのがわかる。そのため自分の声が聞こえない。空間が渦を巻き、ぼやけていった。三半規管も機能を失い、受付にかけた右手と地面についている二本の足だけが現実世界と自分をつなぎとめる唯一の橋だった。 もう一度声に出そうと決め込み、下腹に力をいれた瞬間、ヌリカベがガラムを棚から取りだして丁寧に渡してきた。そのやさしい手つきでマヒトは落ち着きを取り戻すことができた。 長方形のヌリカベの顔には黒ずんだイボのような斑点でびっしりとうめつくされていた。よく見ると半そでから覗く腕にも斑点はあり。斑点は全身にあるであろうことを創造させた。 人一人座るのがやっとな店内には極めて小さな音でサンタナのブラック・マジック・ウーマンが流れていた。 代金を渡した終えたマヒトは、この出会いになんらかのメッセージを見てとっていた。目の前には憧れ続けたこんにゃくがいる。心臓の音がどんどん大きくなる。サンタナが流れていなかったらこんにゃくにまで聞こえてしまっていたかもしれない。サンタナに感謝である。 マヒトは受付のペンをもぎ取り、ガラムの箱の裏に電話番号を書いた。そして、「あの~よ、よかったら電話ください」 声が裏返っていた。目を見ることできず。投げ出すようにガラムを受付けにほって、全速力で駆け抜けた。 "こんな気持ち初めて" バレンタインで憧れの先輩にチョコを渡す女子高生の気持ちはこんなんだろうか。茜色の空がまぶしかった。 午後8時半をまわった頃、知らない番号から着信があった。 マヒトは息をのんで、電話に出る。 「もしもし」 「もしもし、カルロス・尾崎・サンタナですけど」 尾崎カルロス・サンタナ!!! これが後にGEZANで図太いグルーブを練りこむこんにゃく系ベーシスト、カルロス・尾崎・サンタナとの出会いである。 予断だが、彼のイボイボは、全裸でライブをすることで自然治癒の恵みを受けることに成功し、すでに癒えている。そのようなスタイルから彼は自らの演奏をpray(祈り)としている。生まれ持ってのシャーマニストなのだ。ぼよよん
厳しい冬は過ぎ去り、桜も散って、新緑まぶしい5月、マヒトは春の毒素に犯されていた。 一日の大半を鼻くそをほじったり、塗り絵をしたり、屁をこいたりしてすごした。あの元町で出会ったイーグルとバンドをやりたい気持ちはあったがギター二人ではロックバンドにはならぬとほったらかしていたのだ。 この日もポカポカした陽だまりの中、淀川で水切りをして、ふにゃふにゃしていた。マヒトはこれが唯一の得意分野であった。この日も適当な石を見つけると表面をやすりで削り、匠ぶっては、フンフン鼻を鳴らし、フンフン。いい気になっていた。 3時間ほどすぎてそろそろ帰ろうかなと思い始めた頃、足元に自分の理想通りの石が転がっているのを見つけた。マヒトはこの石で自己最高記録を更新してから帰ろうと、やすりで丁寧に磨き何度も何度も繰り返しシュミレーションした後、これを投げた。 大きく振りかぶって投げた石はスパスパと水を切り、跳ねていく。マヒトは少年のように目を輝かせ、大声で「イチ!ニー!サン!シー!!」と数えていたが途中で数えられなくなった。対岸まで石が届いてしまったのである。その快記録に驚喜乱舞でタコ踊りでもしようかと思った瞬間、「舐めとんか?われー?」と地鳴りのような声が聞こえた。かと思うとモジャモジャ頭のまぁまぁでかい巨人が、淀川にズブズブ入ってこちらに向かってくるではないか。どうやら石が当たってしまったようだ。中くらいの巨人が近づいてくる様は映画ジョーズの鮫に似て不気味だった。水面上から覗く、彼のアゴが鮫そのものに酷似していたためだ(写真2) 謝ろう、謝ろうと謝罪文句を探している間に、こちらの岸についてしまったまぁまぁでかい巨人は空手チョップを首筋めがけて振るってきた。マヒトの首筋に、錆びた斧でえぐられたよう痛みが、鈍い音をたてて広がった。目の前に剃刀でできた星がちらつき、クレヨンで書いたようなのどかな春の風景を切り裂いた。 ざわざわ、、、、起き上がる刹那、マヒトは心の中でうずうずと狂気の桜が芽吹くのを感じる。 マヒトは鮫巨人と格闘した。一歩も譲らぬ交戦の間、マヒトの中にある感情が浮かんでいた。 「こいつのパワー計り知れんわ。このチョップを振り下ろす力をそのままドラムセットにぶつけたら一体どうなってまうんや。こいつにドラム叩かせてみたい。だから負けられへん。」 背負った物の違いだろう。やみくもに放たれたマヒトの左フックはつきでたアゴを完全にとらえ、鮫巨人の頭蓋を揺らした。マヒトは咄嗟に馬乗りになり身動きを封じる。もはや勝負がついたところで鮫巨人に問うた。 「お前やるやんけ。名前は何や?」 「シャーク安江じゃ。」 シャーク安江!!! これがGEZANの爆音ドラマー"シャーク・安江"との出会いである。胸にある大きな傷跡はこの死闘の際にマヒトの打撃でおったものである。是非生で見てもらいたい